幸野果の生産者のひとりでもある大原好文さんは神奈川県足柄上郡中井町で化学的に合成された肥料も農薬も用いない有機農業を30年にわたり実践してきています。地元で何代も続く農家である大原さんは、農地が市街化区域と共存しているという地の利を生かすことができる環境にいると同時に農産物の安全性や品質、味に対するこだわりは人一倍です。
”市街化区域に隣接する都市農業は消費者に近いという恩恵を享受できる。「採れたて」や「産地直売」という言葉で「新鮮さ」をアピールすることにより販売は比較的好調。でもそれら全てが本当に良いモノなのかどうかについては疑問に感じるところもある。”
大原さんは今年で30年目となる「神奈川土づくり研究会」の会長を務めています。研究会では化学的に合成された肥料も農薬も用いない有機農法のあるべき形、美味しい農作物を生産するための土づくり理論やその手法、技術の習得などについて、勉強会や実栽培での試行錯誤を通じた取り組みを行ってきています。
そういう大原さんも同研究会に参加されるまでは慣行農法を実践されていました。当時は除草剤や農薬、化学肥料を使いたい放題使っていたそうです。ただそれらは宣伝文句ほどに収量が上がるわけでもなく、収穫された作物も不味くはないが美味しくもない。あくまでも普通の味だったといいます。
様々な作物を複数の畑で栽培していると、1日に3回、4回と農薬を散布せざるを得ません。雨が降ってしまえば薬の成分が洗い流されてしまうため、翌日にはまた散布が必要になります。
”農作業だからもちろんカラダは疲れるのは当たり前だが、農薬を使っていたある日、その疲れ方が普通ではないように感じた。もちろん自分が感じただけでどうしてそう感じたのか理由はわからないが、これは少しマズイかもしれないと思った。”
そこで農家が健康的に農業を行い、消費者にとっても安全な農作物が生産でき、さらにそれが美味しいと言ってもらえることが可能な農法として土づくりを中心とした有機農法への転換を決意されたそうです。
そうは言っても一足飛びに有機農業に変えることができるわけではありません。30年という時間をかけて今のような形が出来上がってきました。
化学合成農薬の代わりに葉や樹皮に殺虫効果成分を含むニームという木の実から採取したオイルとその搾りかすを害虫防除に用いたり、マリーゴールドのような忌避効果のある作物を栽培して畑の土に混ぜ込むことで土壌障害を抑えたりと工夫は絶えません。
堆肥を基本に有機肥料を植物がその栄養分を吸収しやすいよう分解・発酵させたぼかし肥料(分解・発酵済みの有機肥料)、ミネラル分やカルシウム分など土の栄養バランスを整える天然肥料を用いて土づくりを実施したうえで種まきや苗の植付けを行います。もちろん除草剤は使用しないので後はひたすら草取り作業です。草がはびこると後が大変ということで、栽培を行っていない畑でも除草作業は行われます。
どのタイプの農業でも苦労はありますが、有機農業では1年を通して手を抜けない日々が続きます。
”有機農法はその手間や使う資材を考えると(そうでない一般の慣行農法と比べると)幾分コストが高くつくこともあるかもしれない。でも安全性や健康面でのリスクを加味した総コストで考えると全く問題ならない。”
”やはり農業は消費者が喜んで買ってくれるものを作ることが重要。自分の場合はそれを実現できる手段が土づくりを軸にした有機農業であって、そのための努力は常に怠らないようにしている。”
”自分が農業にかける思いや実践する農法について共感してくれる消費者の期待に応えていくことでお互いの信頼関係を構築し、安全な上に安心して食べられる美味しい食べ物のやり取りへとつながっていくと思っている。”
”今後も新規就農者を含めて土づくりに真剣に取り組んでいる農家と一緒に、消費者に共感してもらえる農作物を生産し、提供することを通じてみんなの健康的な生活、楽しい生活の一助になることができればいいと思う。”
美味しく信頼のおける農作物の栽培のため、今後も大原さんの有機農法における探求は続きます。
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